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 不味くて捨てたコーヒー缶に、地図やらフライヤーやら良かった展示のチケットやらぐっときた映画の半券やら、そういったものを放り込んでいくのは、こうやって書いていることと同じで、別の脳を外につくっておく作業、俺の体に付いている脳のスペースをなるべく空けておく作業で、そんなことをしているからずっと色んなことを覚えておけないのかもしれない。
 で、それとは少し違った感触だけど、近い感覚で、書いたもの、描いたもの、撮ったもの、思い付いたもの、そういったのを送る人を探しているような、そんな気がしてきた。

 他人のあらゆるものに引き摺られ、影響を受け過ぎる、自分が無さすぎるし、一貫性もない、俺の意思とは関わりなくどんどん進んでいる、何も決定しないし、決定権もなく、何をすればいいか分からないけれど、したいことがあって何をすればいいか朧気ながら分かる、したいことが本当に存在できるものなのかどうか分からないだけか、これしよーと思ってそれができるくらいの元気な状態を維持して、それで生きておくことだけが唯一の望みで、それを基準にあれこれ決めていくと、その速度で分裂していくような動き方をする必要がある、退屈さや飽きからどれだけ離れることができるか、上手く出来ても下手でも飽きるものは飽きる、知識からどれだけ離れられるか、知識を持った者の気色悪い傲慢な態度、それに陥らずに済むか、全部あらかじめ用意されている中で、どうやってそれまで存在した、これから存在する自分がマークを残したものを見つけ出すか、知っていることを語る際の語り口について考える、前置き、いくつもの前提、自身のその発言の前提の説明、その言葉は、どんな前提を踏まえてやって来たか、知識に飲まれた者の断定的な言い草、氾濫して意味が混ざってそのまま吸収されていく学術語、得た知識を翻訳する技術、自前の延命措置をいくつも用意すること、他者との関わりで自身を溶解させること、連続することの熱を保つ、一冊の本を読みながら別のところにある本の気配を感じること、他者の影のなかで眠る午後から伸びていく、おでこにとまった蝶の、翅の表、その色彩、崩れていった、そのままでおかれたビル群のあいだを抜ける新しい道、私たちはその道を歩いていた。あと数分もすれば、カンクがつくった噴水のある広場に出るだろう。所々で堆く瓦礫が集まり、見える景色の遠近感がばらばらになっていた。彼女は手を握って、口笛と鼻歌で調子を取りながら歩いている。見える景色の大抵は、修復できないほど傷み、私たちはそれらをもともとそこにあったのだと考えるようになっていた。カンクはそのような瓦礫から転用して噴水を拵えた。どうだろう、見えるかな、道の左右、コンクリートやガラスに混じってぐにゃぐにゃ曲がった太い金属の棒、柔らかそうでがさついた綿みたいなのとタイル、何種類もある煉瓦や砂利の混ざった壁面、倒れかかった太いのや細いのがあるパイプ、無数の砂、砂埃、空気は乾燥していて、深く吸い込むことを喉が拒む、ほとんどの動物は外に出て行って、それっきり戻らないし、近付くこともない、千切れて散らばった本、タイヤのない凹んだ車、どの機械も一部をもぎ取られていた。そうこうするうちに、私たちは噴水の前に立った。真四角に近い枠の中央に、不釣り合いに長い鉄のパイプが突き刺さっている。その先端から飛び出る水は広がりを持ち、枠の際に落下した。それは噴水には見えなかった。丸みを帯びたまま循環し、くるくる回る水の玉のように見える。手を伸ばすと、割れた水との隙間から鉄柱が見えた。そうして初めて噴水だと認識するようになり、それからは、遠くから見ていても噴水を見ているのだと思うようになった。

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