PENCO.29

 陽が落ちてすぐ、よく分からないくらい大きなショッピングモールに併設された映画館へ到着する。
 ごった返した駐車場をうろうろしていた。
「やばいね」とペンコが言って、「みんな集まるからね」とささらが答え、「お腹空きましたね」とあたるちゃんが言って、「な」とクスノキが答える。

 十分以上は探し回っていた。
 ようやく見つけたスペースへカングーを停め、腹立たしいくらいの隙間を抜けて車外へ出る。
 みんなポップコーンのことなんて忘れていて、とにかく何か食べたかった。
 軽い散歩くらいの距離を歩き、フードコートで腹ごしらえすることに、テーブルを見つけるのにもしばし時間がかかる。
 あたるちゃんと私はモスバーガー、クスノキとささらはカレーを、ペンコは銀だごで、それぞれに買い集まった。
 人も多いがそれ以上に騒々しい。
「一口!」と人差し指を立てるペンコへバーガーを向けると、たこ焼きを一つくれた。
「たまに食べると美味しいね」と彼女は言って、私も同じようなこと言う。
 クスノキもささらも黙っているところを見ると、多分、カレーなのにそれほど美味しくはないのだろう。
 私は今から一番近い映画を調べるが、本数がある割にどれもぴんとこない。
「どうしよっか」と四人へ画面を向ける。
 誰も何にも惹かれず、それなら、とにかく今から観れて一番短い映画にしようということになった。

 またまあまあな距離を歩いて映画館へ。
 映画館へ来たなあ、という感慨のために設えたみたいな内装で、瞬時にわくわくしてしまう。
 まとめてチケットを買ってるあいだ、二人が売店の列に並び、二人はトイレへ行った。
 五人で映画を観るなんて初めてのことだから、チケットの総額に「こんな映画に?」とたじろぐ。
 ささらとあたるちゃんに合流し、注文するものを聞いてから今度は二人がトイレへ、そのすぐ後でクスノキたちがやってきた。
「あたるちゃんはキャラメルのとメロンソーダ、ささらはホットコーヒーだって」
「うーん、じゃあ、あれでいいんじゃない?」と彼女が指を差す。
「クスノキは?」
「俺は塩とジンジャーエールかな」
「私もメロンソーダ!」
「おっけー、どっか、ソファとか空いてれば待ってて」
「え、いるよ」
「気にしなくていいけど、ありがとう」
「じゃあ俺は座っとく」
「うん、あたるちゃんたち見かけたら声かけて上げて」
「分かった」
 列は微動だにしない。
「つぐみは何がいいの?」
「どうしよう、キャラメル食べたいけど結構お腹いっぱいなんだよね」
「私食べれるからあの、あれ!、ペアセット二つでいいじゃん」
「いける?たこ焼き二十個ぐらい食べてなかった?」
「たこ焼きなんかほとんどポップコーンじゃん」
「そうかな?」
「つぐみ少食だよね」
「そうかな」
「あたると同じくらいか少ないときもあるし」
「まあ」「ペンコが食べれ過ぎなんじゃない」
「そんなことないよ」
 家族連れと二人組が多いが、一人でいる人も、友人同士らしい三人から四人くらいのグループも多い、だからとにかく人が多い。
 開場のアナウンスが響いている。
 数分おきにどこかのスクリーンが開いて、ぞろぞろと人が出てきて入っていった。
 私たちの観る映画もいくらか前に呼び出しが始まっているが、まだ注文すらできていないし、何なら間に合いそうもないけれど、どうでもいい映画だったからこれはこれで楽しい。
「行列にいらいらしない人だね」
「仕方ないしね」
「いらっとするのってそういうの関係ないでしょ」
「まあ、そうか」「する?」
「する」
 言われてみれば、これまでも行列自体に苛立ったことはなかったかも知れない。
 天井のスピーカーから、音量自体は小さいのに割れた音が流れている。
 ぎぎがごごがが。
 遠いところに来たな、と体感が広がっていく。
 旅行先で映画を観るのが初めてだったのを、映画館で聞いたことない音で思い出したのだろうか。
 ペンコは左右に揺れながら、数秒ずつ片足立ちになって時間を潰している。
 何となく左斜め後ろを振り返るとクスノキたちが座っていて、私はいつソファの位置を知ったのだろう。
 手を振るささらに手を振り返し、前を向く。
 こきりこは結局どこへ行って、どこで死んだのか。
 まだ生きている可能性もなくはない。
 元々野生だったのだし、ささらが拾ってきたときだって比較的元気だった。
 野生で生き残るためのあれこれが、あんなに短い期間で失われるとも考えずらいし、体つきも小さくはなかった。
 私にとってこきりこは、ささらが特別かわいがっていたから愛着の湧いた猫であって、それまでやそのあといた猫と変わりはないはずだった。
 それでも、そのこと以上に何か記憶の中に引っかかる感触があって、ささらとは別にあの猫を思い出すことがあった。
 それも結局は、ささらが可愛がっていたからこそ、私は彼に気を配っていたし、その他の猫以上に気持ちを推し量ったりもしたはずで、だけど思い出の中では、私にとっても特別な猫だった。
 私は何を考えたがっているのだろう?
 そのものの死やなくなってしまうことを恐れるものが、私にとって特別なものだった。だから、どれだけ大切な本や映画も、私に覚えられているから特別ではなくて、いつなくなってしまってもいい、いいというか、特別なものではなかった。
 学生の頃毎日のように一人か誰かと連れ立った定食屋も、もういい。大切なものと特別なものは全然違っていた。
 考えがまとまらない。
「さっきペンコが言ってたこと考えてたんだけどさ」
「さっき」
「車の中で。そういうこと、ペンコもあったの?」
「あったよ、たくさんある」
「覚えてない?」
「言葉の方?」
「そう」
「まだぎり覚えてるのもあるよ、でもそういうのは、なんか起こった時に、あ、そういえばあの人ああ言ってたなー、ってレファレンスとして出てくる」
「まだ一部にはなってないんだ」
「そう、でも何度も思い出すし、その度にだんだんその人抜きに思い出しはじめる」
「ああ、なるほどね」
 いくつかレジがあって、それぞれに一組ずつ、私たちは同時に二番目だ。
 真ん前の男女二人組はどうしてかまだ注文するものを決めてなくて、財布も出していない。
 何がどうなってそんなことになるのだろうか。
 右端の店員が「お待たせいたしました、二番目でお並びのお客様、こちらへお進みください」と声を張り上げる。
「いらっしゃいませ」
「ペアセットを二つ、飲み物はメロンソーダが二つとジンジャーエール、ホットコーヒー、単品のオレンジジュースのM、でお願いします」
「かしこまりました」
 レシートを受け取り、どこで待つべきか分からないまま横へ、そのような人たちがたくさん待っている。
 あたるちゃんたちが立ち上がったような気がして、それはそうだった、三人は列を迂回して私たちの元へ、待ち人はそうして増えていった。
「先に入ってていいよ、一人で持てるし」
「そんな」とあたるちゃんが言って、「何でもいいしね」とささら、クスノキも今回はここに残った。

 十分ほどしてトレーを二つクスノキとペンコが持ち、オレンジジュースは私が持った。
 もぎりの元へ、五人分のチケットを広げて出し「左手奥、六番シアターです」との案内を受ける。
 私たちの他にもそこへ向かう人たちがいて、近づくにつれ盗撮防止の映像が流れていた。
「ぎりぎり間に合ったね」と声をかけ、四人とも不思議そうな顔で振り返った。
 数歩歩いて「ほんとだ」とペンコが言って、ささらは「よく聞こえたね」と言う。
「そう?」
 私たちの席はE列の真ん中から左右に二席ずつで、暗転中にそこへ辿り着いた。
 クスノキ、ささら、ペンコ、私、あたるちゃんの順で、トレーはペンコの席に二つとも置かれた。
 無言のまま飲み物が配られる。
 腕を伸ばしてポッコーンを適当に取り、左手に受けてつまんだ。
 もうつまらないけれど観るしかない。
 意外に塩のポップコーンが美味しいことと、あたるちゃんが食べさせてくれること以外、何も心躍るものはなかった。
 彼女は何度目かのあと私の手を制し、「何味がいいですか?」と、彼女の、通るというよりも芯がしっかりあって澄んでいる声だから聞こえる音量で囁いた。
 私は頷き、手前の方を指さす。
 しお?、と口を動かして、その仕草に一瞬間固まって、もう一度頷いた。
 退屈でもないし面白くもない映画で、目自体は忙しく動くのだけど、何か思いや考えが進むわけでもないし、これはと感動するような演技や台詞もない。
 時間に総量があるとすれば、この二時間近くを生み出した者には厳罰が執られて然るべきだろう。
 ささらとクスノキは頭を寄せ合って眠っているようだ。
 際限なく運ばれるポップコーンを食べながら、スクリーンの左端の方を見て目を休める。
 いつだったかに吉祥寺かどこかで観た映画のことを思い出していた。
 薄暗いマンションのロビー、階段下にあるポストをチェックする若い男、赤い服、ナイロンジャケットを羽織っていて、ダイヤルを回す前に手を擦り合わせていた、冬だろうか、見事に生え揃った短めの顎髭を左手で撫でながら、空中で器用にチラシや封筒を選別している、男の部屋はがらんとしていて、物が少ないわけではなくて、ものとものの間隔が広く取られている、鳥の鳴き声と川の流れる音、窓が開いたままでどこかへ出かけていたようだ、上着を脱いでバーガンディのセーターに着替え、煙草をくわえたまま部屋の中を歩き回っていた、夜道、男はポケットに片手を突っ込んで、やはり右手で、本を読みながら歩いている、前を歩くサラリーマンの二人組は酔っているのだろう、覚束ない足取りで左右へ振れる、男は二人組に気が付いて歩く速度を落とす、煙草を取り出してくわえ、本をジーンズのヒップポケットへ、丸めるようにねじ込んだ、細くも太くもない歩道だ、左手は一車線ずつの道路で、右手は植え込みとそこから伸びるがたがたとした堤防のようなもの、男は目についた拳大の石を手に取る、立ち止まり、左側の男へ向けて思い切り投げつけた、遠目で見ても凹んだことが分かる、一歩分前へ、深い穴へ落ちたように画面外へ、夕方のスーパー、男はカートを押している、カゴの中にはニラと豚肉、いくつかの調味料にスナック菓子。
 私はこんな映画をどこで観たのか。思い出せるのだから観たのだろうが、観たという行為自体の記憶はない。
 噛み忘れていたポップコーンで口がいっぱいだ。
 右手を斜め前に出し、もう大丈夫、と振る。
 あたるちゃんは私の目を見ながらポップコーンを近づけ、押し込むように食べさせた。
 ストッパーがあるみたいに、音が出ることを躊躇って噛むことができず、かといって次のポップコーンまでに一粒だって飲みくだせない。
 昨日から、もしくは知らないうちに年を越していて今日は、あたるちゃんは私をからかいたいらしい。
 涙目になりながら、オレンジジュースで流し込む。
 口元でだけ笑った彼女は満足したのか映画へ目を向けた。

 エンドロールが終わって場内が明るくなり、私は長いため息をつく。
 お腹もいっぱいだったし喉も痛かった。
 他の客が大体出て行くまで席についたまま、私たちは話さない。
「やばすぎ」と、最後の一人が見えなくなってからペンコは立ち上がり、まだ寝ているクスノキを起こした。
 ささらは背中を伸ばしながらうなって、ぱっと立ち上がる。
「とんでもなかったですね」
「むしろすごいものを観たね」
 清掃するスタッフと入れ替わりで外へ、すぐそこに待ち構えている別のスタッフへトレーを手渡す。
「ささら、家で映画観れる?」とペンコ。
「Netflixか近所の、あ、閉まってるかも」
「じゃあなんか観よ」
「口直しですね」
「よく寝た?」と私。
「六割寝てたな」
「意外と起きてたね」

「帰りは任せてー」と言うささらにキーを投げ、私は後ろに座る。
 真ん中にあたるちゃん、その隣にクスノキ、ペンコは前に乗りたがって、空いてきた駐車場を抜ける。
 窓の外の景色はどこも、大抵は信じられないほど暗い。
 いくら出歩く人がいないからといって、もう少しは街灯があってもいいはずだ。
 私は帰りは高速に乗るつもりだったが、ささらもそのようで、行きとは違った道を進んでいた。
 クスノキもペンコも眠って、静かなドライブだった。
 ささらはラジオを小さな音で流し、懐かしさを呼び起こすために作られたようなソウルミュージックが流れている。
 幼い頃を思い出すが、類する思い出はない。
 運転席の後ろだったから見えないけれど、ささらは「悪くないな」と言いそうな顔をしていたはずだ。
 気怠いくらいの夜に親しい人と車に乗るのは全く、悪くないなとしか言えない。
 あたるちゃんの重みを右半身に感じる。
 車の中で起きているのは私とささらで、会話もないのにお互いが起きていることさえも、互いに分かっていた。
 高速道路へ移っても景色は同じようなもので、むしろいっそう均一化して、さっき通った道を走っていたとしても気付けない。
 どうしてこれほど暗いままにしているのだろうか。
 何も起こっていないのにずっと喜びがあった。
 佐和子から連絡があってそれは「あけましておめでとう。いつ空いてる?」とのことで、私は挨拶と五日が空いていることを伝えた。
 小さな寝息が三つもあると、眠気が誘い出されたように現れる。
「運転大丈夫?」「いつでも代われるよ」
「全然、トイレ大丈夫?」
「私は大丈夫、みんなは知らないけど、ささらは?」
「そんなだけどパーキングとかなさすぎるから次行こうかな」
「おっけー」

 その会話から内子PAまでも大した時間はかからなかったし、なぜかそれ以降にSAもPAもなかった。
 滑り出るように車の外へ、ささらと私はトイレへ向かう。
 起こすべきか迷ったけれど、どこかで降りてコンビニにでも行けばいい。
 二手に分かれて数分後、自販機のそばで煙草を吸った。
「明日クスノキ何時に帰るの?」とささらが言って、そういえば何時だったろう。
「あー、聞いてないな、どうなんだろう。三ヶ日は休みって言ってたけど、明日一日で帰りきるのかな」
「そっか」
「ささらは?いつから仕事?」
「六日だね」
「結構余裕あるね」
「そうそう」
「今年もずっとこっち?」
「去年よりはそっち行くこと多いかもしんない、泊めてくれる?」
「どれだけいてもいいよ」
「今年はそっちで年越ししてもいいかもね、もしくはみんなでどっか行くか」
「それもいいなあ」
 体が勝手に震えるくらい寒いが、空気が澄んでいて心地がいい。
 どちらからともなく、自販機で温かいコーヒーを買う。
「なんか、前につぐみのとこで会ったのと、クスノキの印象変わった」
 何か仕掛けられているのかと身構えるが、そんなこともないか。
「そう?」「どんなのからどうなったの」
「かなりざっくりしてるけど男版つぐみって感じだったのが、全然似てないなって」
「男版私は私じゃん」と軽口を挟む。
「そうなんだけどね、つぐみはそんなに異性って感じしないから」
「ふーん」
「なんかだから、このメンバーに、ってわたしは抜きでね、このメンバーでクスノキの立ち位置というか、いる理由が分かんない、ってのはきつい言い方だけど、そんなふうに感じてて」
「うん」
「それがさ、昨日?だっけ、みんなでバーベキューして二人で結構話し込んでたんだけど、分かったっていうか、あ、全然思ってたのと違う人だったって」
「うん」
「あ、だから、特にいい印象も悪い印象もなかったところから、素敵な人だなーって」
「口数が少ないしね」
「うん、絶対それもある。前回ほとんどわたしたち話してなかった気がする」
「何にせよ仲良くなってよかったよ」
「うん」ささらはそこで口ごもり、私はどうして彼女が思い煩っているのかが分かってしまう。
 戻ろっか、と言い出す前に-そもそも何故そうしたのか?-短く息を吸って「しちゃったんだよね」と言った。
 驚き過ぎず、知っていたことも悟られないような声で、とにかくそういった意識の元で、「そうなんだ」と答える。
「なんでわざわざ?」と私は訊ねた。
「うーん。大人になってさ、こういう感じで集まれるのって、わたしはあんまりないから、なんか水を差すようなことしたくないなって」「遅いけど」
「や、そんなの、気にするのも分かるけど全然、みんな好きにすればいいじゃん」
「うん、あー、そう言うの分かってて言ったのかも」
「確認?」
「そう、かな」
「またしたいから?」と私は笑う。
「だね」、と、二人の間にあった、ようにしか思えない澱みかけた空気が抜けた。
 彼女に照れたところがなかったことで、本当に申し訳なさを感じているんだ、と半ば感動していた。
 私は後になって、どうしてその人を好きになったのか、繰り返し繰り返し気付かされる。
「戻ろっか」
「だね。寒い」
「運転、どうする?」
「あー、じゃあ、お願いしてもいい?」
「おっけーおっけー」

 行きが下道だったからか、そもそも距離が短いからか、帰り道の八割を走ってもあっという間だった。
 ささらは寝ることもなく、あたるちゃんを起こさないくらいの音量で、私と話していた。
 大学での時間を思い出しながら、ああでもないこうでもないと、もう既に思い出せない話ばかりしていた。

 家から最寄りだけど遠いセブンの駐車場へ車を停め、一応みんなに声をかける。
 何故か順に起きてきて、寒さについて一言漏らした。
「なんか買って帰るけど行く?」
「ペンコもほらー起きてー」とささらが肩を突っつく。
 ぐずぐずと動き出さないペンコを置いて、妙に目が冴えた私たちとふらつく二人で店内へ。
「明日何時に出るの?」
「明日、ああ、昼過ぎに出る予定」
「まだチケット取ってないの」
「まあ、いけるだろ」
 特に欲しいものも見当たらず、おつまみになりそうな缶詰や乾物を見繕う。
 店内の光量と外気の冷たさに、二人は徐々に目を覚ました。
 あたるちゃんはパックの卵をカゴへ入れ、「だし巻き作ります」と言った。
 クスノキとささらは「おおー」と声を漏らす。
 店の中から助手席のペンコを見ると他人のように見えた。
 それはそれで正しいけれど、もっと、物質的でない隔たりが感じられる。
 特にしたいわけでもない会話の最中、その間に漂っている空気の層みたいなものが、ここにもあるようだ。
 ぼーっとしているとカゴが引っ張られて、「俺が払っとく」とクスノキが言う。
「ありがとー、煙草吸って待ってるよ」と答え、私はあたるちゃんを探し、連れて出た。
「寒さちょっと慣れましたね」と彼女は言って、あ、ありがとう、とライターの火を受ける。
「そんな気もする」
 レジの前でクスノキとささらは何やら楽しそうに笑っている。
「なんか二人いい感じですね」「サイズ感とか」
「え、ああ、確かに」
 確かにそうだ。
 肉塊として、不釣り合いなところがない。
 クスノキは単体で見ても大きいけれど、ささらは小柄ではないし、骨か筋肉か、しっかりしたつくりに見える。
 守衛として二人が門を挟んで立っていたとして、かなり安心感があるはずだ。
 あの位置にあたるちゃんが立っていれば、クスノキの堅牢さに比べてやわに見えるし、ペンコは小さい、しかしそういう組み合わせは溢れているし、何故それだと均衡が保たれていないと感じるのか。
 私が立っていたとしても、ささらほどしっくり来ないはずで、多分、私もクスノキも裸だったらぴったりだ。
 でもそれはクスノキのもっているその場を規定する力に対して、おそらく、私が着痩せして露呈しない筋肉の部分が足りてないということで、でも、それはあまりに肉体にフォーカスし過ぎている。
 あたるちゃんが「サイズ感とか」と言ったから考え始めたが、それにしても、各々の大きさはいつでも大体同じで、しかも五人でいるあいだのクスノキの場を醸成する力は今に比べて弱いのに、クスノキと誰か、を比べると途端に、こっち側のことばかり考えてしまうのは、やはり単に彼が大きくて分厚いからだろうか?
「ペンコはハクビシンみたい」とあたるちゃんは助手席を指差した。
 うん、細長い生き物が丸まっているように見える。
 彼女は服を着ていても着ていいなくても、細い、とは思わない、むしろ、意外にふっくらしていて、肩幅も狭いとも広いとも、どちらかと言えば広く感じられる。
 ただ小柄なだけで、それも特に小柄というわけでもなくて、肩幅と同じようなどちらかで言えばといったくらいのもので、私が感じる存在感みたいな、ここにペンコがいる、と感じられる力は五人の中で突出して強い。
 細長い生き物が丸くなって眠っているようにしか見えないのは、実際、目を凝らしても細く見える部分も長く見える部分もないし、意味が分からない。

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